marcelo(マルセロ)

 昨年12月いっぱいでうちの部署では何人かの契約が終了し、離職しました。そのうちの1人がマルセロ。ごみ収集担当者でした。この契約形態で市役所で働いている労働者層はうちの部署ではごみ収集か街の清掃の職に就いていますが、彼らは最大でも1年の契約でしか働くことができません。日本でいう派遣社員やパートタイマー、アルバイトのような位置づけで、はじめは6か月の契約なんだけど、6か月過ぎたところで、更新するかどうかっていう話になって、市長に認められた人は1年まで延長することができるらしい。国の法律的にはもう少し長く働ける法律があるということも聞いたことがあるのですが、任地では最大でも2年まで。でも2年というのもかなり稀なケースで基本は1年。このマルセロは本当は今後も契約をすごく延長したがっていて、何回か上司に頼んでいたようだったけど、市の決まり事なのか、6か月目で1回更新をしてすでに1年働いている身なので、結局延長は認められませんでした。この前環境部会で聞いたなかでは、ボランティアがいる他の市では、この層の人たちも長い期間で雇用している市もあるようで、みんなで雇用形態が安定しているのはいいねって話していました。そういう意味では、ヤンササは小さな街だけに、その分いろいろな人に雇用機会が行きわたるような体裁を重視した市長の方針なのか、もっと働きたい人がいても、なかなか継続できないのが現実のようです。この層の人たちのお給料も、市役所の仕事なだけに、ボランティアの私の月の手当よりも高いお給料なので、体力勝負で大変そうだな~とは思うけど、その分ここで続けたいということなのかもしれません。前にマルセロに「この仕事更新したい?」って聞いたら、「もちろんもちろん。」と返ってきたので、そういうことのようです。マルセロは小柄なガテン系ってかんじだけど、勤務態度もとてもまじめで、日本人の私にも友好的でした。だから私も質問しやすくて、マルセロが回収するごみ収集車に乗ることも多く、そのたびに歓迎してくれて、少しずつ親交を深めることができました。祝日にごみ収集が入るときも、嫌がりながらも、あとからこそっと上司に「やっぱり出勤だよね?」って確認しにきて、働いてくれとお願いされると一番はじめに静かに納得してくれていました。私よりもいくつか年上らしく、走りまくる体力勝負の収集の仕事は若い人が重宝される中、年齢を感じさせない働きぶりでした。そんなこともあり、個人的には同僚の一人として私もマルセロには延長してほしかったのですが、難しそうです。難しそうと書いたのは、実は今もまだ上司や市役所の人事関係の上層部に相談に来ていて、清掃のポストが空いているからそこで働けないかと頼んでいる最中のようです。でもおそらく無理なのかな~という雰囲気。こういうかんじで、ごみ収集や街の清掃担当者たちとは、せっかく仲良くなっても、契約が切れて頻繁には会えなくなってしまうということもあり、これからもあるんだろうなと思います。小さい街なので意外と街でばったりということも多いとは思いますが。

この更新の話はいつも期限ギリギリに通知されます。例えば今回12月末までの契約の人たちの更新の有無が正式に通知されたのが12月28日。そこから新しく来る人の手続きとかバタバタやります。日本的には更新されない場合を考えて、次の仕事を見つけておかなきゃ…とか考えるとあまりにもギリギリすぎる更新スケジュールなんじゃないかなとか思うけど、ここでは大丈夫らしくこれが普通のようです。おそらく更新されなかったらそのとき考えるということのようです。更新期限を迎える時期を見るのが初めてのときはみんな不安にならないのかな…なんて見ているだけの私がソワソワしてしまったけど、意外とみんなのほうが何も気にしていない風。

いつ書こうかなと思っていたことがあって、エクアドルでの労働に少し関係がある話なので、紹介しておきます。エクアドルには「ingeniero,ingeniera(インヘニエロ(男性)、インヘニエラ(女性)」という概念があります。意味は直訳すると「技師」。技師という言葉からイメージされる理系・工学系の技師ではなく、おそらくここでは専門的な知識を持っているということの総称で使われています。これは、titulo(ティトゥロ)という大学を卒業すると得られる称号を持っている人のことで、縦社会で形式を重んじるこの国では、とても重要視されているしくみです。労働者層の人たちや大学に行かずに働いている人たちは持っていません。市役所でも見ていると、インヘニエロの称号を持っている人には必ず名前を呼ぶときに「インヘニエロ、〇〇さん」と呼んでいます。これだけでもこの国の体質がイメージできるのかな~とも思ったり。あ、でもエクアドルネームを覚えるだけで精一杯の私はいちいち誰がインヘニエロかまでは覚えられないので、付けていません。ちなみにエクアドルの若者風に略すと「インへ」。このtituloがきっとこの国ではひとつのステータスになっているようで、初対面でもふつうにガツガツ聞かれます。「あなたは何のtituloを持っているの?」って。私もこれまで何回聞かれたことか。任地に来るまでまったく知らない概念で、はじめてtituloの話をしたのはステイ先の家族とでしたが、そもそもtituloってなに?ってところから始まって、私も全然イメージできずに、向こうも大学出てるならtitulo持ってるんでしょ?っていう頭で聞いてくるので、そのときの話の噛み合わなさと言ったら今でも思い出すと大変だったな~と笑えてきます。他の街に同じタイミングで赴任した同期たちも同じことになっていたようで当時の同期ラインではtituloの質問攻めがすごいけどみんなはどう答えてる?そろそろ回答に疲れてきた…みたいな話題で相談しながら盛り上がっていたのを覚えています。

例えば…この国の大学で法学部を卒業すると、みんなが「弁護士」のtituloを持つことができます。そして「弁護士」のtituloを持っていればみんな「弁護士」として働くことができます。だから街には弁護士事務所がたくさん、飽和状態なんじゃないかと思うほどだけど、離婚の数が圧倒的に多いし、感情的で情熱的な生活の中ではいろいろトラブルも多いということか、弁護士が溢れかえっているという話は聞きません。「あなたは何のtituloを持ってるの?」と聞かれたら、「日本にはtituloというしくみがないんだけど、大学では法律学を勉強したよ。」と答えるのですが、「じゃぁ弁護士だったんだ。」と100%で返ってきます。で、「いや、弁護士ではなく、〇〇の企業で働いていたよ。」と答えると、法学部を卒業してるのに弁護士として働かないということ自体がエクアドル人にとってはあまりピンとこない部分もあるようで、tituloを持っていないと答えると、じゃぁ大学をちゃんと卒業してないってこと?っていう話の流れになってしまうこともあります。だからそこで日本にはtituloというしくみがないんだよということを再度説明しますがちゃんと理解してくれているのかは不明。日本で弁護士になるためのしくみとエクアドルのそれとでは全く異なっているので、大学を卒業しただけでは弁護士になれないというようなそのあとの流れとかまで説明することもあるんだけど、やっぱり他の国の文化のことは分かりづらいようで、そもそもtituloという文化がないということにみんな「?」みたいな雰囲気になる。だから任地に来てすぐは、この話になると説明したあとの反応がすでに予想できたので、いちいちtituloの話になるのがめんどくさかったときもあったけど、さすがに今はもう聞かれることも少なくなったし、まぁ向こうの反応にも慣れました。日本人からするとtituloって何だよってかんじですが、エクアドルではとても大切。少し前に書いた記事で紹介したユリという女性、彼女はこれから大学に行くんだけど、この国で働くためにはtituloがとても大切だから大学に行く必要があるんだと強く私に話してくれました。同僚のエドウィンも契約を更新できるかどうかの話のときに、インヘニエロの称号が不足してるとかなんとか上層部から言われていたようだったし、見ていると必要なんだな~と感じる場面がたくさんです。

少し話は飛びましたが、こういう側面からもエクアドル社会を観察したりもしています。

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ここ最近の私はというと、今のカウンターパートとの協働が全くできていない状況です。一番はもちろんわたしの語学力ではありますが、ここまできたらそれだけではありません。カウンターパートの外国人ボランティアに対する理解があまりにも感じられなくて、彼も上司に昇格して以来、日々の目の前の実務で忙しいのはわかるし、たくさんの仕事をしている?というのはわかるのですが、その分私との活動に関しては、実際彼のスペイン語は早すぎて、1回では理解できずに、そういうこともおそらくめんどくさく感じるのか、コミュニケーションが取りづらいと感じる場面、明らかにバカにされていると感じる場面、私といい関係を築こうと思っていないんだろうな~と感じる場面も多々あって、正直なところ、ついていけないというのが本音です。昨年末頃から事あるごとに仕事の進め方も考え方も日本とは根本的に違うから…と一番は相手を尊重したいという思いと「異文化理解」という言葉で飲み込んで、まずは受け入れるようにはしていたけど、ただ目の敵にしたいだけなんじゃないかとまで感じることもあります。このままでは今後の活動を含めて私のこれからの1年半がいろいろマズイのではとも感じています。このあたりについては、私も自分のために考えて、いろいろな人を頼りながら進めてみます。

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そして、先日無事にエクアドルで1回目の誕生日を迎えました。今回は少しまじめな話になったので、次回は誕生日のときのことを書こうと思っています。